東京大学法学部で政治史・外交史を講じた岡義武が1955年に岩波全書の一冊として著した名著。岩波現代文庫でリニューアル。坂本義和氏の解説付き。

国際政治史というタイトルではあるが、時期区分としては絶対王政期ヨーロッパから帝国主義、戦間期までが中心として記述されている。特徴的なのは絶対王政期の「ヨーロッパの膨張」と、ナポレオン戦争、フランス革命の前後の記述である。坂本義和も解説で指摘する通り、市民の視点が取り上げられていて、またそれが必ずしも文中で明示的に書かれているわけではないが、ウィーン体制を「市民的政治体制形成期のヨーロッパと世界」といった見出しで記述している。これは外交と内政をセットで考えようとする取り組みということであり、高坂『古典外交の成熟と崩壊』で外交官の貴族的な文化的均質性を指摘した会議外交という見方とは異なるものであろう。本書では、ウィーン会議の成果を正統主義と勢力均衡の見地を指導原則とした復古的なものであり、民族主義が考慮の外に置かれた(pp..52-57)と捉える。ウィーン会議後、政治的自由獲得の運動、民族的解放の運動が徐々に発展するも、メッテルニヒに代表されるドイツおよびイタリアにおいて弾圧された。坂本が指摘するように、国内体制の民主化と国際政治との連関(p.389)が本書の特色であるが、これは1955年という当時を考えると、やはり先駆的な業績と言えるだろう。

岡義武はモーゲンソーに批判的であった。岡の弟子であった坂本義和がシカゴ大学のモーゲンソーの下に留学したことは興味深い。ただし、モーゲンソーをゴリゴリのリアリストと切って捨てるには、本書の市民の視点が明確に差異化できるほどに徹底して書かれているとは言えない。とはいえ、絶対王政期から第二次世界大戦期を考えるにはナショナルインタレストの政治を重視せざるをえないように思うのは、本書から50年以上たって、デモクラシーが良い意味でも悪い意味でも普遍的な価値として広まった現代に生きているからかもしれない。


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このページは、okneigeが2009年12月31日 10:06に書いたブログ記事です。

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