これまでも社会科学の研究論文の書き方についての本はいくつかあったが、
この本は国際関係論に焦点が絞られているのが特徴。
その意味では、この業界には激震がはしるような衝撃を与える必携の一冊となりそう。

・よい理論とは事象を説明する能力が高いものである。
・よい理論は単純化することによって物事を明らかにする。
・よい理論とは「満足できる」もの,すなわち,われわれの好奇心を満たしてくれるものである。
・よい理論は明確に組み立てられたものである。
・よい理論は原則として反証可能である。
・よい理論は重要な事象を説明するものである。
・よい理論は現実の政策への処方に富むものであり,有用な政策提言を生み出す。

特に第2章「事例研究とは何か」と、第4章「政治学の博士論文を書くために役立つヒント」が秀逸。

・事例選択の基準(p.79)
1.データが豊富であること
2.独立変数、従属変数、または条件変数が極端な値をとっていること
3.独立変数、従属変数、または条件変数の値が事例内で広く分散していること
4.競合する理論によって事例の多様な予測がなされること
5.現在の政策課題の状況と事例の背景条件が似ていること
6.事例の背景条件がプロトタイプとしての性質をもっていること
7.ほかの事例と制御された比較を行うことが適切であること
8.特異値としての性質をもっていること
9.本質的に重要であること
10.以前に行われた検証を適切に再現できること
11.これまでは省かれていた種類の検証を適切に実施できること



開発援助の実務家が執筆しているジュニア新書。

この手の業務を概観するにはよくまとまっており、導入には最適。
印象に残ったのは児童労働、子どもとエイズ、セックスワーカー、ジェンダー。

最近は少年兵も子ども兵と呼ぶようになったようだが、
やはりジェンダーの影響は貧困がひどいほど顕著であり、
後発開発途上国(LLDC)や難民キャンプにおいては重要な問題である。

たとえば難民キャンプでは、男性がDVやアルコール中毒になることがしばしば見られる。
と言うのも、開発機関の援助で子供は教育を受け、女性は家事があるものの、
男性は難民キャンプにおいて労働を禁止されている。

そのため、男性はただ怠惰でいることを、期間の定めなく強いられている状況になる。
そんな過酷な状態下で発狂しそうになるのは勤め人の男性なら、なんとなく分かると思う。

ジェンダー的な観点は、先進国に住む私たちの想像以上に重要だ、ということだろう。
尚、ジェンダーについては『平和政策 』(有斐閣、2006年)の竹中論文が優れており、
田中明彦も書評で理論的な考察の鋭さを指摘していたので参照ありたい。




バングラデシュ現地生産のジュートバッグを販売しているマザーハウスの社長による自伝。
この人、たしか情熱大陸とかに出てたので見たのが最初と思うのだが、
マジですごい人生を送っている。根性が違うよ。


だって、いきなり男子柔道部で鼻を折られた高校時代から始まり、
SFCから米州開発銀行にインターンしたと思ったら、
勢いでバングラデシュのBRAC大学院開発学修士を受験してしまう。

ちなみに、BRACと言えばグラミン銀行の元となったマイクロファイナンスを実施している、
バングラデシュの巨大NGOである。
途上国では、NGOが大学を持つほど巨大になって準政府化することが、しばしばある。

さて、そのBRAC大学院の外国人はじめての留学生になってから、
ほんとにたくさんの挫折を乗り越えながら、バッグ販売を始めるまでは、
開発援助では届かない途上国の自立を引き出すための大変さが滲み出ていて印象に残った。

感想としては、ともかく不器用なりに必死でやっている同年代がいることにまず衝撃。
かものはしとかのNPOもあるが、ビジネスで、施しでなく、真剣勝負で、
バングラデシュの成長を支える姿勢に強く感銘を受けた。

この努力を、もっとレバレッジをかけて、ムーブメントにできないものか。
そんなことを考えてみた。

やっぱり、人がすべて。

人材、人材。日本には実践できる人材が少なすぎる!

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このページは、okneigeが2009年9月 6日 08:36に書いたブログ記事です。

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